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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)8149号 判決

原告

野崎建設株式会社

右代表者

野崎一太郎

原告

日本資材開発株式会社

右代表者

川口道雄

原告

佐々木親雄

番場ヨシノ

右四名訴訟代理人

安藤章

福田拓

丸山俊子

内丸義昭

被告

更生会社日本開発株式会社管財人

仁分百合人

山崎久一

右訴訟代理人

西迪雄

吉田豊

入江正男

山下俊六

被告

東洋総合開発株式会社

右代表者

藤井八郎

被告

東洋不動産株式会社

右代表者

塚元博

被告

株式会社三和銀行

右代表者

檜垣修

右被告ら三名訴訟代理人

入江正信

山下孝之

坂本秀文

西村捷三

(以下、原告野崎建設株式会社を「原告野崎建設」と、原告日本資材開発株式会社を「原告日本資材開発」と、被告更生会社日本開発株式会社管財人仁分百合人、同山崎久一を「被告管財人」と、被告東洋総合開発株式会社を「被告東洋総会開発」と、被告東洋不動産株式会社を「被告東洋不動産」と、被告株式会社三和銀行を「被告銀行」とそれぞれ略称する。)

主文

一  原告らの主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一1  盤梯急行が昭和四三年七月一三日、事実上倒産するに至つたため、盤梯急行に対する債権者中の六一名(原告ら四名を含む。)が、同年一二月一六日に開催された第一回債権者総会において、全員一致をもつて、債権者委員一四名を選出したうえ、右債権者委員一四名による債権者委員会の設置を定め、さらに右債権者委員の一人であつた日本開発を債権者委員会委員長に選出したことは、原告らと被告東洋総合開発、同東洋不動産、被告銀行との間において争いがなく、右事実中、右の第一回債権者総会に原告野崎建設及び同佐々木が出席していたことを除くその余の事実については、原告らと被告管財人との間において争いがない。

2  そこで右債権者総会及び債権者委員会が、盤梯急行の倒産処理に果した役割、債権者委員会と盤梯急行との関係及び債権者委員会の活動状況等について順次検討することとする。

〈証拠〉を総合すれば、第一回債権者総会において、債権者委員会委員長は、和議法による和議申立てを行うことを目途として会社の再建を図り、債権の回収については債権者委員会に委任することが出席債権者全員の一致で承認されたこと、第一回債権者総会が開催された当時、盤梯急行の債権者の総数は二三五名、債権総数は約一六億円であつたこと、右債権者のうち六一名の債権者が債権者総会に出席し(この点は当事者間に争いがない。)たが、右出席債権者の債権額は約九億七五〇〇万円(総債権額の約六〇パーセント)であつたこと、その後債権者委員会は、昭和四三年一二月一九日を第一回として、昭和四四年八月二一日までに前後三〇回開催されたこと、債権者委員会は前記六一名の債権者の委任に基づいて債権回収に努力し、また、和議法による和議によつて事態を処理して配当を行うため、昭和四四年九月一三日、第二回債権者総会を開催したこと、右の第二回債権者総会における出席債権者は、委任状提出者を含め、一一六名、その債権額は約四億九〇〇〇万円であつたこと、右総会においては和議申立てについてこれを強力に推進し、早急な配当を実施するよう、債権者から債権者委員会に要請がなされたこと、しかし、その後、和議申立ての件は、盤梯急行の財産が皆無のため、債権者委員会において債権者らの承認を求めるにも求めようがないこととなつたこと、昭和四四年三月二二日、債権者委員会、盤梯急行及び日本硫黄労働組合の三者間において、盤梯急行の債権債務関係の処理につき後記認定に係る内容の合意がなされたことが認められる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  そして、前記1の当事者間に争いのない事実及び右に認定の事実によれば、盤梯急行の債権者らは、経済的に破綻した盤梯急行の債権債務関係の処理を、法定の手続によることなく、自主的、かつ、集団的に行うこととしたのであつて、盤梯急行の倒産処理は、いわゆる私的整理に委ねられたものということができる。

4  ところで、一般に、和議・会社整理・会社更生もしくは清算・破産等法定の手続をとることなしに、債権者が一団を組成して、債務者との話合いのもとに、倒産企業をめぐる法律的諸関係の整理・決済、企業財産の管理ないし処分、残余財産の分配、債務の弁済等いわゆる私的整理を行うことによつて、当該企業の再建もしくは債権・債務の清算を図ろうとする場合には、債権者中の若干名からなる債権者委員会なるものが設けられることも少なくなく(この点は、当裁判所に顕著である。)、前記各事実によれば、本件の前記債権者委員会も、盤梯急行の再建もしくは清算を図るとともに、第一回債権者総会に出席した債権者その他盤梯急行に対する債権者の債権の保全と回収を共通の目的とする債権者の一部一四名の集りであるということができる。

5  思うに、右のような債権者委員会が設けられることにより実施される私的整理においても、債権者委員、債権者委員会、債権者委員会委員長について、法的概念としての明確な定義があるわけではなく、また、その組織ないしは選出について必要不可欠な手続を予定し、その権限が明定されているわけでもないのであるから、法的制約ないしは規制が柔軟である反面不明確な点も少なくないのは、事柄の性質上避けがたいところといえよう。そしてこの点は、私的整理において極めて重要な役割を果たすものと一般にいわれている債権者委員会委員長についても同様であるが、右の債権者委員会委員長が、債権者団あるいは債権者委員会の中核的存在として、一面では債権者らの意思を集約、調整する機能を遂行するのと併せて、他面では、債務者にかわり、その財産を、債務の弁済のために、債権者の適当とする方法で処分又は利用に供する等の目的で、債務者からこれを譲り受けてその処理に当たるなどのことを行う場合も予想されるのであつて、このような場合の債権者委員会委員長が、その果すべき機能と任務の本質からして、公序良俗に反せず、かつ、信義誠実の原則に従い、正義公平を旨としながら、債権者団と債務者の信頼の上に立つてその任務の遂行に当たるべきは、我が国全法律秩序の精神に照らし当然のことというべく、また、時と場合に応じ、事実上、あるいは法律上、ときには債権者の側に立ち、ときには債務者の側に立つて(必ずしも法律上の双方代理になるとは限らない。)行動することをも余儀なくされるであろう。

6  したがつて、いわゆる私的整理が、最終的には、債権者あるいは債権者団と債務者との間における一種の和解契約の成立をもつて終了するものであるとしても、それまでの過程における債権者委員会ないしは債権者委員会委員長なるものの行動は、多種多様多岐にわたるものと考えられる。

そして右の債権者委員会なるものの法的性質についてみても、必ずしもこれを一義的に論定することは困難と考えられるのであつて、ときには債権者中の有志何名かが自らすすんで、あるいは債権者らに推されて民法上の組合を結成し、あるいは権利能力なき社団ないしはこれに準ずる組織体と観念されるに足りる団体性を具備した集団を形成している場合ももちろんあるであろうが、しかし、債権者委員会の名称を有する債権者らの集りのすべてが常に右のいずれかのうちに入るというわけのものではないと思われる。また、個々の債権者ないし債権者団と債権者委員会ないしは債権者委員会委員長との間の法律関係についても、民法上の委任若しくは準委任関係が存するものとみられる場合のほか、全債権者のためにする、信託に準じた法律関係の存在をみることのできる場合がないとはいえない。しかし、右の両者間の法律関係が常にすべてそうであると論断することもまた早計にすぎるものというべく、以上の理は、債権者委員会の委員中の一人が、債権者団ないしは債権者委員中から選出されて債権者委員会委員長なる地位に就いている場合における右の債権者委員会委員長と、個々の債権者あるいはその余の債権者委員ないし債権者委員会自体との法律関係についても同様である。更に債権者委員会委員長の地位を、民事訴訟手続における選定当事者の地位に類似するものとみることのできる場合があるにもせよ、常に必ずそうであるとも断定しがたいわけである。

7  以上のように考えると、右の各場合の法律関係については、すべて、債権者らないし債権者委員からの、債権者委員ないしは債権者委員会委員長にあてた委任状その他関係書類の存否及びそれらの内容等を含む個々の具体的事実関係を基礎としてはじめて個別的に確定され得るものとするのが相当である、と同時に、いわゆる私的整理の終結に至るまでの個々の場面における債権者委員会ないしは債権者委員会委員長の行為の一つ一つについて、それが法律的あるいは経済的見地から、債権者ないしは債権者団を代弁もしくは代理する立場のものであるのか、あるいは債務者を代弁もしくは代理する立場のものであるのかを吟味する場合においても、具体的な事実関係によらないで、一義的にこれを決するのは相当でないものといわなければならない。

二1  以上の観点から本件についてみるに、まず原告らは、要するに、盤梯急行の債権者ら二三七名による民法上の組合が結成され、債権者委員会委員長日本開発が、右二三七名の債権者を代理して、原告ら主張の経緯により、本件持分を取得したので、原告らにおいて、その主張の割合により、本件土地の共有持分を取得したものである旨、なお、右民法上の組合の結成が認められないとしても、原告ら主張のような債権者間の黙示の合意もしくは事実たる慣習により、債権者らは、債権額の割合に応じて本件土地の共有持分を取得したと主張するとともに、仮に債権者委員会委員長日本開発が右二三七名の債権者を代理した事実が認められないとしても、債権者委員会を構成する債権者委員一四名が、自己の名において債権者らのために、原告ら主張の経緯により、本件持分を取得したので、原告らは、その主張の割合により本件土地の共有持分を取得した旨を主張し、さらに右債権者ら二三七名による組合の結成が認められないとしても、債権者委員一四名による民法上の組合が結成され、債権者委員会委員長日本開発は、右一四名の組合員を代理して、原告ら主張の経緯により本件持分を取得したので、原告野崎建設、同日本資材開発、同番場は、各自一四分の一の割合で、本件土地の共有持分を取得したものである旨主張している。

2(一)  そこで右の原告らの主張の前提として、原告らによつて主張されている、本件債権者委員会発足の当時、盤梯急行が原告ら主張に係る、互助会から本件持分を取り戻す権利(再売買の予約完結権)なるものを有していたかどうかの点について検討する。

盤梯急行が昭和四一年九月二七日当時、本件土地につき本件持分を有していたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すると、盤梯急行(昭和四一年九月二七日当時は、同社の前身である株式会社日本硫黄観光鉄道と称した。)は、昭和四九年九月頃、資金繰りのため、後記宮地観光の代表者訴外宮地稔連帯保証のもとに、互助会に対して、本件持分を担保に供したうえ、同会より金一億円の融資を受けることとなり、同月二七日、互助会との間に、本件持分を代金一億円とする売買契約を締結すると同時に、右互助会との間で右持分を代金一億二七〇三万〇三〇〇円とする再売買契約を締結したこと、右再売買契約の内容は、代金は昭和四二年三月から同四四年九月までの計六回、半年年賦の割賦払とし、代金金額の履行により所有権が互助会から盤梯急行に移転されるものとなつていたこと、このようにして盤梯急行は、互助会より金一億円の融資を受けたが、悪化していた経営状態は一向に改善をみず、右の再売買の代金についても第三回分以降の支払ができないまま、昭和四三年七月一三日、手形の不渡を出し、同月一五日には銀行取引停止となつて事実上倒産するに至つたこと、しかし、その後の昭和四三年八月一二日になつて、盤梯急行は、互助会との間で、本件持分に対する盤梯急行の買戻権喪失を確認するとともに、同日改めて、売買代金額を金一億〇六〇〇万円・予約期限を同年八月末日とする売買予約を締結し、右期限を徒過したときは、何等の通告を要せず当然に右予約は効力を失い、互助会が本件持分をどのように処分しても盤梯急行は何ら異議を申し立てないものと約したこと、盤梯急行は右期限内に右代金の支払をしなかつたこと、以上の各事実が認められる。

〈証拠判断略〉

(二)  ところで、右の当時において、債権担保の目的で債務者が、その所有に係る不動産の所有権を債権者に一旦移転する場合になされるいわゆる再売買の予約においては、その代金支払の期限を徒過したとしても、権利者において当該不動産についての清算を終えるまでは、債務者は、債務を弁済して右不動産の所有権を復帰させることができるのが一般であるけれども、前段認定の事実関係のもとにおいて、債権者である互助会と債務者である盤梯急行とが、昭和四三年八月一二日になした前認定の合意は、これを無効とすべきいわれがないから、盤梯急行は、昭和四三年八月一二日の合意及び予約期限である同年八月末日の徒過によつて、本件持分を取り戻すための権利を確定的に喪失する一方、互助会は、本件持分を最終的に取得したものというべきである。

(三)  したがつて、原告ら主張のように、債権者委員会において、代物弁済として、原告ら主張に係る、本件持分を取り戻すための権利(再売買の予約完結権)なるものを取得するに由ないものであるから、右の点に関する原告らの主張は、理由がない。

3(一)  次に原告らの主張する各組合結成の点及び債権者委員会委員長日本開発が二三七名の債権者ないし一四名の債権者委員を代理して、あるいは右債権者委員一四名が、自己の名において、債権者らのために、本件土地の本件持分を取得したかどうかの点を検討する。

〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができる。

前記債権者委員会は、まず盤梯急行の資産について調査を行つたところ、その資産は皆無に等しく、整理のための手続的費用の支弁にも事欠く有様であつたが、かくては債権者が盤梯急行に対して有する債権は、その回収の望みを失うため、何とかして債権者への配当のための財源を捻出したうえ、清算の方向でことを収拾すべく、すでに喪失したものとされていた盤梯急行の互助会に対する本件持分を買い戻す権利なるものを復活させて本件土地の買戻しをしたうえ、これを他に転売してその間の差益を配当の財源とするべく、昭和四四年二月には、盤梯急行から、本件持分の処理についての一切を債権者委員会に任せる旨の確認をとりつけたうえ、日本硫黄労働組合の協力のもとに、全逓信労働組合委員長や互助会の前会長に斡旋を依頼する等して互助会と交渉した結果、同年三月二二日、債権者委員会、盤梯急行及び日本硫黄労働組合の三者間で、盤梯急行の債務の処理に関する契約が締結された。右契約においては、さきに盤梯急行が互助会と買戻契約を締結の本件持分については、債権者委員会の負担においてその買戻しをするものとする旨合意され、同時に、日本硫黄労働組合は、その組合員の退職金相当金に充当すべきものとしてその所有権を取得していた本件土地の隣接土地である福島県耶麻郡猪苗町大字蚕養字沼尻山中二八五五番地の七九に対する持分三七分の三二を債権者委員会に提供し、日本硫黄労働組合の所有名義の不動産に設定されてある抵当権設定登記等の抹消及び差押えの解除等は同委員会が行うこととし、これと引換えに債権者委員会に右土地の所有権移転登記手続をすることとし(ただし、提供を受けた債権者委員会において、その所有名義を何人にするかは債権者委員会の自由とする。)、債権者委員会が日本硫黄労働組合より右の土地の所有権移転登記を得たときは、その時点において、債権者委員会の盤梯急行に対する債権は一切放棄する旨を約した。しかし、本件土地は、そのうち持分三七分の五が他の共有者に属するため、本件持分のみの換価処分は容易でなく、かつ、本件土地の右残余持分三七分の五及び本件土地の隣接土地のうち日本硫黄労働組合提供に係る持分三七分の三二を除いた残余持分三七分の五については、いずれも別途これらを買い受ける必要があり、また、本件土地に付着している通称入会権と称される権利及び造林上の負担についてもこれを解消することが必要であつたが、債権者委員会自身の力でこれらの全てを実現することは不可能であつた。そこで同委員会としては、本件土地所有権の取得とはいつても、即座にこれを第三者に対して処分すべきもので、自らはその間に介在することによつて差益を捻出のうえ、債権者への配当財源とすることだけが目的であるところから、かねて本件土地の転売方を考えたこともあり、また、現地の事情にも精通していた地元企業の宮地観光に対し、日本硫黄労働組合ともども働きかけた末、右宮地観光が総額約一億六三〇〇万円の対価を支出して、これを後記互助会からの本件土地持分三七分の三二の取得費、本件土地持分三七分の五と隣接土地持分三七分の五の取得費、通称入会権なる権利の取得費等に充てることにより、本件土地全部と隣接土地持分三七分の五を、通称入会権を含めて、取得する旨の話をまとめるに至つた。そこでまず債権者委員会においては、盤梯急行の承認のもとに、本件土地全部と隣接土地持分三七分の五を、通称入会権を含めて、代金一億六五〇〇万円で宮地観光から買い受け、手付金として金一五〇〇万円を昭和四四年三月二六日限り、残金一億五〇〇〇万円を昭和四四年四月二〇日限りに支払うこととし、その旨の契約を、昭和四四年三月二二日、宮地観光、債権者委員会、日本硫黄労働組合、盤梯急行の間に締結した。なお、その際右各土地の造林上の負担については、買主である債権者委員会において処理することとなつた。次いで互助会と宮地観光は、昭和四四年三月二六日、本件土地の本件持分三七分の三二につき、互助会を売主、宮地観光を買主とした、売買代金一億一五〇〇万円の売買契約を締結したが、右代金中金一一〇〇万円は同日支払われ、残金は、昭和四四年四月二五日までに買主または買主の指定する者に対する右不動産の引渡し並びに所有権移転登記申請手続を完了するのと同時に支払うこととし、右土地上に存する入会権、造林上の負担については、買主においてこれを処理することとされた。ところが債権者委員会は、それ自体が権利義務の主体となり得るかどうかの点に疑義があつたばかりでなく、同委員会自身としては、資力もないうえ、前記のように、差益を債権者に対する配当財源として捻出すればそれで足りる立場にすぎなかつたので、右買取資金を手配する必要を生じ、債権者委員の一人である原告番場に出資方を要請したが、同原告にはその力がなかつたため、同じく委員中の片桐安次及び日工工業の佐藤金作に出資方を懇請した結果、ようやく右両名が出資に応ずることとなり、債権者委員会は、右片桐、佐藤と協議した結果、片桐、佐藤は、同委員会との間において、右両名が右の買取代金一億六五〇〇万円のほかこれとは別に一般債権者の債権に対する配当の引当金として金七〇〇〇万円を提供することが約定され、昭和四四年四月一六日に、片桐、佐藤と債権者委員会との間で、片桐、佐藤が本件土地を金二億三五〇〇万円で買い受ける旨の契約が締結され、同日手付金として金二五〇〇万円が支払われた。残金については、昭和四四年四月二一日に金一億四〇〇〇万円、昭和四五年五月二〇日に金五〇〇〇万円、昭和四五年一二月一九日に金二〇〇〇万円を支払う旨約され、なお所有権移転登記の日は、昭和四四年四月二一日とし、登記名義人である互助会及び渡辺恒雄ほかの四名より中間省略の方法により登記手続を受けるものとされ、通称入会権についても同日、右片桐安次及び佐藤金作に譲渡され、造林上の負担は、右両名においてこれを処理することとなつた。なお、右の売買代金については、その後、昭和四四年一〇月一日、当事者間において、合計金二億六五〇〇万円とすることが約され、追加代金の金三〇〇〇万円は、昭和四五年一二月一九日に支払うこととなつた。その後佐藤金作がその代表者であつた右日工工業、及び片桐安次は、昭和四四年一一月二七日、本件土地につき、それぞれその取得した持分割合により所有権取得の登記手続を経由した。

一方債権者委員会は、昭和四四年九月付けの「債権者委員会活動報告書」において、本件土地の転売による差益及び不動産返還処分に伴う収入金を主な配当財源として予定している旨を報告していたところ、右の経緯を経て配当財源として合計金九〇〇〇万円を確保することができたため、昭和四五年一〇月八日、債権者に配当することを決定し、債権者委員会において確認した全債権者に対して、同委員会の承認した債権額の一〇パーセントに相当する金員を配当金として支払うこととし、二回に分けて配当金支払通知書を送付のうえ、これを支払つた。また、配当金の受領に来ない者に対しては、再三再四配当を受取りに来るよう通知書を送付した。そしてなお、配当に関する必要書類を提出しない者及び債権額の確認不能の者については、昭和四六年四月二〇日をもつて配当対象者から除外し、これによる余剰金を財源として追加配当金(債権額の0.5パーセント)を同年六月三日に支払い、もつて配当の支払を全部終了し、同月四日債権者委員会を解散する旨、債権者委員会委員長から債権者に対し文書により宣言、通知された。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二) 前記二の2の(一)で認定した事実と右において認定した事実を併わせ考えれば、債権者委員会及び債権者委員会委員長日本開発は、本件土地の前記各売買契約がなされた当時、本件土地取得のために支出すべき資金を有せず、また、これを取得しても、これを保持する意図は毛頭なく、これを直ちに第三者に転売して、そこに差益を生じさせ、もつて盤梯急行に対する債権者の債権に対する配当をなすべき財源を捻出することを目的としていたため、いわば形式的に債権者委員会の名を買主あるいは売主として介在させたにすぎなかつたものということができるのであるから、本件土地を形式的に取得してこれを処分するに至るまでの債権者委員会ないしは債権者委員会委員長の行動は、その反射的な経済効果としては、債権者が、配当を受け得ることによつてたとえ一部にもせよその債権の満足を得ることができたのではあるが、同時に直接的には、債権者たる盤梯急行のために、その側にたつてなされたもので、法律上は盤梯急行の代理人として行動したものとする余地があるのであつて、原告ら主張に係る組合なるものの業務執行者あるいは債権者二三七名ないしは債権者委員一四名の代理人としての法律的地位に立つて、本件土地を買い受けてその所有権を取得したものとみる余地はなく、また、債権者委員一四名が、自己の名において、債権者らのために、右売買契約を締結したものとするにも大きな無理があるものといわなければならない。

(三)  以上のとおりであつて、本件においては、原告らが、本件土地につき、その主張に係る理由によつて、その主張の共有持分なるものを取得したものと認めるに十分な証拠はないものというほかなく、原告らの全立証その他本件全証拠によるも、原告らの主張する各組合の結成を首肯するに足りる事実関係及び債権者委員会委員長日本開発あるいは債権者委員一四名が債権者らを代理し、債権者らのために、本件土地の共有持分を取得したことを認めるに足りない。したがつて、原告らの右の点に関する主張は、その余の争点について検討するまでもなく理由がない。

三ちなみに、原告らは、債権者委員会と片桐、佐藤間の売買契約は、公序良俗に反し無効であるとも主張するが、しかし原告らの右主張を首肯するに足りる資料はない。

すなわち、〈証拠〉によると、盤梯急行と日本開発との間に締結された本件土地の売買契約については、これを合意解約することにつき、盤梯急行の取締役会の承認を経ていること、日本開発は盤梯急行に対し土地代金として支払つた二億円を超える未回収債権を有していることが認められ(〈証拠判断略〉)るのであるから、日本開発が盤梯急行との間の右売買契約を強引に合意解約したものとはいえない。また、日本開発が債権者委員会委員長の地位を利用して本件土地を取得することを企て、片桐及び株式会社日工工業と共謀して、すでに本件土地が債権者二三七名の共有となつたことを知りながら、宮地観光を介して片桐及び右日工工業に本件土地の所有権移転登記を経由させたことを認めるに足りる証拠もない。その他本件債権者委員会委員長日本開発の一連の行為が公序良俗に反することを肯認するに足りる事実関係を認めるに十分な証拠はない。

なお、片桐安次及び日工工業、あるいは日本開発ないしは被告銀行、同東洋総合開発、同東洋不動産が、原告ら主張のいわゆる背信的悪意者であることを首肯すべき資料もない。

四結論

以上のとおり、原告らは、本件土地につき共有持分を有せず、したがつて共有持分を有することを前提とする原告らの本訴主位的及び予備的請求はいずれもその余の点を検討するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(仙田富士夫 日野忠和 嶋原文雄)

物件目録、別表一、二〈省略〉

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